増田陽子のビタミンCブログ

ビタミンCから、分子栄養学や機能性医学、予防医学、アンチエイジングの世界を知りました。ビタミンC療法のメッカであるリオルダンクリニックで勉強中です。勉強したことの記録ですが、読んだもの全てをまとめているわけではなく、勉強になったことを書き出している感じです。

がんに対するビタミンCの効果、メカニズムについてのレビュー

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6037948/

 

Potential Mechanisms of Action for Vitamin C in Cancer: Reviewing the Evidence

Margreet C. M. Vissers et al. Front Physiol. 2018; 9: 809.

 

最新の、がんに対するビタミンCの知見です。

今年のレビュー。

 

過酸化水素の発生による抗がん効果はもちろんですが、最近はビタミンCによるHIF転写活性の阻害や、エピジェネティックな抗がん効果が注目されており、その辺りから、とても面白い内容となっています。

(はじめはあまり面白くないかも、、、)

 

 

Introduction

・最近の第I相試験では、高用量ビタミンCが化学療法の効果を高めることが示されているWelsh et al., 2013; Hoffer et al., 2015)

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Uptake and Metabolism of Ascorbate

・ほとんどの動物は肝臓や腎臓でアスコルビン酸を合成するが、人、他霊長類、モルモット、フルーツバットはグロノラクトンサンオキシダーゼが欠乏しておりアスコルビン酸を合成できない。

・合成できる動物は、主にSVCT1or 2を介して細胞内にビタミンCを取り込む(細胞内の濃度は50μMくらい)。

・これは血漿の数倍高い濃度(Tsao, 1997; Mayini and Qu, 2005; Savini et al., 2008; Harrison and May, 2009; Mandlら, 2009; Nualartら, 2014)

 

・赤血球はSVCT2がなく、GLUTを介してDHAを取り込む(Tuら, 2017)

・マウスモデルでは、血漿でビタミンC濃度が低い場合、組織のビタミンC濃度も低い(Vissers et al., 2011)

・病気になった動物はアスコルビン酸の合成量を劇的に増やして、代謝回転の増加に対応する(Chatterjeeら, 1975; Michels and Frei, 2013; Campbell et al。, 2015)

・動物の腫瘍移植モデルでは、血漿および組織アスコルビン酸レベルは高く維持され、補充による効果は乏しい(Michels and Frei, 2013)  

 

 

アスコルビン酸(AA)の化学

・AAは1〜2電子を供給して(酸化され)、比較的安定なアスコルビルラジカルやDHAになる。

DHAは中性pHでは不安定で、グルタチオンまたはチオレドキシンによって還元されてアスコルビン酸塩にならない限り、ジケトグロン酸、シュウ酸およびスレオニン酸により迅速に分解される(Washburn and Wells, 1999; Smirnoff, 2000) (Washko et al., 1992; Washburn and Wells, 1999; Linster and Van Schaftingen., 2007)

DHAは、アスコルビン酸塩のうちごくわずかで、1~2μMを超える濃度で存在する可能性は低い(Dhariwalら., 991; Michels and Frei, 2013; Pullarら, 2018) 。

DHAは空気中の酸素で容易に酸化され、検査で過大評価されやすい(Dhariwalら, 1991; Levineら, 1998; Michels and Frei, 2013; Pullar et al., 2018)

 

アスコルビン酸塩は、遷移金属イオン(Fe 3+、Cu 2+)をキレートおよび還元し(Du et al., 2012; Padayatty and Levine, 2016)、食事からの鉄吸収を促進する(Lane and Richardson, 2014 )

・酸素の存在下ではフェントン反応を促進し、ヒドロキシルラジカル過酸化水素などを生成する。(Haber-Weiss化学(Winterbourn, 1981; Buettner, 1987; Smirnoff, 2000; Koppenol, 2001; Levine et al., 2011; Michels and Frei, 2013)

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 AAの抗がん効果

・がん細胞に対する細胞障害効果を報告した論文は、インビトロでの多くの研究がある。

 単独または化学療法との併用(Wellsら, 1995; Reddyら, 2001; Pathakら, 2002; WozniakおよびAnuszewska , 2002; Guerrieroら, 2006; Kassoufら, 2006; Chenら, 2007、2012; Martinottiら, 2011; Verraxら, 2011; Maら, 2014; Cieslakら, 2015; Xiaら, 2017)

 放射線治療との併用(Herst et al., 2012; Castroら, 2014)

 

・この効果は、主に1mM以上の濃度で生成される過酸化水素により、以下の効果がある。(Chenら, 2011; Espeyら, 2011; Frombergら,  2011; Rouleauら, 2016; Kimら, 2018)

 ・細胞周期停止

 ・p53アップレギュレーション

 ・ATPレベルの低下

 ・ミトコンドリア機能障害

 ・抗酸化遺伝子発現NrF-2の抑制

 ・アポトーシスによる細胞死(Tarumotoら, 2004; Frombergら, 2011; Rouleauら, 2016; Yangら, 2017)。 

 

・mM濃度のアスコルビン酸レベルを目的した、パイロットスタディおよび第I相臨床試験がある(Hofferら, 2008,2015; Montiら, 2012; Stephenson et al., 2013; Welsh et al., 2013)。 

 

 

・1mM以下の場合でも効果はあり、100μMや1μMでも、エトポシド、シスプラチン、またはドキソルビシンに対する癌細胞の感受性が増強された(Kurbacherら, 1996; Reddy et al., 2001; Tarumoto et al., 2004; An et al., 2011)

・ただ、これらの作用機序は不明である。P53などの細胞生存経路の改変?(Kurbacherら, 1996; Reddyら, 2001; Tarumotoら, 2004; Anら, 2011)

 

 ・アスコルビン酸塩がゲムシタビンと相乗効果には強いエビデンスがある(Kassoufら, 2006; Espeyら, 2011; Martinottiら、2011; Voltaら、2013; Cieslakら、2015)

・最近のフェーズⅠ/Ⅱ試験(Monti et al., 2012; Welsh et al., 2013)では、有害事象は発生しなかった。  

 

 

腫瘍異種移植片マウスの研究

・経口や腹腔内投与を用いた試験で、様々な腫瘍に対し成長速度を遅らせた(Gao, 、2007; Chenら, 2008; Chaら, 2011、2013; Espeyら, 2011; Maら, 2014; Campbellら, 2015,2016b; Yunら, 2015)

 

 

がん細胞内へのDHA(デヒドロアスコルビン酸)の取り込みと酸化ストレスとの関連

・赤血球、感染部位の好中球などでは、DHAGLUTを介して細胞に取り込まれる(Rumseyら, 1997,  2000; Corpe et al., 2005; Wilson, 2005; Michels and Frei, 2013)

・細胞内に入ると、DHAはGSH、NADH、NADPH依存性酵素によって還元され、これらを枯渇させる可能性がある(May et al., 1997, 1999; May, 2002, 2011)

 

・KRASおよびBRAF変異は結腸癌において一般的で、GLUT1および解糖系が亢進している(Yun et al., 2015)。このタイプの腫瘍移植動物モデルで4g/kgの腹腔内投与で腫瘍増殖が遅くなった。

DHA過酸化水素の産生とともに、GSHの枯渇などでも抗腫瘍効果に寄与している可能性がある

 ・アスコルビン酸塩は、KRAS突然変異大腸癌におけるセツキシマブの細胞傷害性を増強し、GLUT1およびPKM2をダウンレギュレーションすることで、解糖系のワルブルグ効果を阻害する。 (Aguilera et al., 2016)

・またこの反応はSVCT2によるアスコルビン酸の細胞蓄積に関連していた(Jung et al., 2016)  

 

 

アスコルビン酸によるHIF活性のダウンレギュレーション

・急速な細胞分裂による乏しい血管形成のもとでは、酸素や栄養の欠乏が起こり、HIFを活性化させる。

 

・HIFとは、、

 ・血管新生、解糖、転移、ケモやRTに対する耐性などに関連(Semenza, 2010,2016; Ratcliffe, 2013)

 ・乳がんでは、がん幹細胞の発現を促進する(De Francescoら, 2015; Semenza, 2015,2016)

 ・乳がん予後不良と関連する(Dachs and Tozer,  2000; Vleugelら, 2005; Caoら, 2009; Semenza, 2010,2015,2016; Voliniaら, 2012; Wangら, 2012,2014; Zhangら, 2012; Debら, 2014; Liuら, 2014; Liら, 2016; Schoningら, 2017)

 ・がんの治療の指標とされている。

 

HIF活性はHIFヒドロキシラーゼによって調節されており、アスコルビン酸はHIFヒドロキシラーゼの特異的な補酵素(Kaczmarek et al., 2009)である。

アスコルビン酸が欠損すると、低酸素に反応してHIFヒドロキシラーゼ活性が損なわれHIF転写活性が上昇する(Knowles et al., 2003; Vissers et al., 2007; Kuiper et al., 2014a; Campbell et al., 2016a)

 

・Guloノックアウトマウスでは、アスコルビン酸の経口もしくは腹腔内投与により、腫瘍内アスコルビン酸濃度、HIF活性化および腫瘍増殖との強い関連が認められた(Campbell et al., 2015,2016a )

・1日ではなく、毎日投与することで、腫瘍内のアスコルビン酸濃度が維持され、HIF低下、腫瘍成長の遅延が観察された(Campbell et al., 2016b)

・ヒト腫瘍組織のレトロスペクティブスタディでは、腫瘍内アスコルビン酸量と子宮内膜、結腸直腸、甲状腺癌組織のHIF活性のマーカーの間に逆相関が認められた(Kuiperら, 2010,2014b; Jozwiakら, 2015)

・結腸直腸癌において、アスコルビン酸が腫瘍内に多いほど、患者の無病生存率が増加していた(Kuiper et al., 2014b)